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マインドフルネスとセックス
マインドフルネスとセックスは、一見するとあまり相性が良いものだと思えないかもしれません。一方は一人で静かに座って行うもので、もう一方は興奮していて、パートナーと一緒に官能と快楽を愉しむものです。しかしマインドフルネスの目的が「心を今に向けること」と「心と身体を結びつけること」を訓練することであるならば、セックスとそれほど変わらないかもしれません。
身体のつながりを楽しむには、無心になることが必要です。マインドフルネスは、より良いセックスを楽しむため、注意散漫にならないようにするために役立ちます。気が散ることなく、その瞬間に集中できればできるほど、性感や欲望、そしてパートナーの欲望に同調できるようになるのです。マインドフルネスや瞑想を定期的に行うことは、パートナーとより深いレベルでつながるための場所を作ることを意味します。つまり、スイッチを入れるためには、オフにする必要があるのです。
マインドフルなセックスとは、様々な方法でパートナーの身体を探究しながら「五感のスイッチを入れる」ことです。
なぜセックス中に気が散ってしまうのか?
これまで、セックスの真っ最中に頭をよぎることがありました。仕事のことだったり、嫌いな上司のことだったり、過去の後悔や未来への不安だったり・・・。
私たちは、仕事、育児、介護など、日中にある役割を演じていますが、そうした役割から、寝室ですぐに「恋人」に戻るのは難しいのかもしれません。セックス中に気が散ることはよくあることで、ある意味で普通のことです。たとえそれがパートナーとの関係であっても、一つのことに集中するよりも、マルチタスクに慣れ、気が散っているように感じられるものなのです。ですから、セックスの最中、心はいつものように彷徨い始めるのです。これは退屈しているとか、セックスが下手だとか、パートナーに魅力を感じないということではありません。ただ自然に心にとって心地よいことを行っているのです。
セックス中に集中できないのは、自分やパートナーに問題があると誤解しがちです。そのため、注意散漫は怖いもの、恥ずかしいものだと思ってしまいます。しかし、実際は、セックスについて十分に話していないだけなのです。普通のマッサージやヘッドスパだったらどうでしょう?マッサージベッドに横たわりながら、気持ちよさを感じることでしょう。そして施術時間の60分が終わると、その間ずっと物思いに耽っていたことに気づくと思います。それはトリートメント体験が悪かったということでしょうか?もちろん、そんなことはありません。
忙しければ忙しいほど、ストレスが多ければ多いほど、ベッドで集中力を持続させるのが難しくなることがあります。セックスに纏わる不安は、自分の身体のことや心の状態に関係なく、襲ってくるかもしれません。セックス中にセックスのことを気にするようになるかもしれません。あなたの体が元々持っている快感やヒリヒリするものに没頭するよりも。セックス中のこのような現象を、「傍観」と言います。頭で考えてしまうということは、「今この瞬間にいる」こととは正反対です。
性生活にマインドフルネスを取り入れるのは簡単なことです。マインドフルネスは、毎日のストレスを管理し、心の迷いを制限し、焦点を研ぎ、自信を構築し、内側の批判を静かにし、自己に思いやりの心を向け、より良いセックスを楽しむことができます。瞑想によって、私たちは日々の雑事から抜け出し、呼吸に意識を戻す能力を身につけることができます。
マインドフルネスはいかにセックスに寄与するのか?
ストレスはセックス中に心と身体の両方に否定的な影響を与えます。余りに多くのストレスは、余りに多くのコルチゾール(性欲を減らすことが知られているストレスのホルモン)を分泌します。それはストレスから身を守ろうとして起きる現象です。それはたとえば、うつ病患者のコルチゾール値が高いことなどからも分かります。つまりコルチゾールは、ストレスと心身の健康状態を結びつける、大切なホルモンなのです。
コルチゾールが急激に増加すると、心は雑念に支配されるようになります。瞑想のよく知られた利点は、ストレスを和らげる能力であり、それは私たちの性欲にプラスの影響を与えることができます。そして今日、長年に渡る2つの実践(マインドフルネスとセックス)が、いかに良い相性になるのかが研究によって明らかにされてきています。
性愛・恋愛セラピストのケイト・モイルは、セクシャルなウェルビーイング(=幸せ)について次のように話しています。
逆もまた然りです。特に女性の場合、人生のライフステージの変化によって、セックスが変化する時期があります。だから、その都度、自分自身をチェックすることが大切です。
ある研究では、とある女性グループが性機能検査を受けた後、2週間おきに3回のマインドフルネス瞑想セッションに参加しました。また、自宅で一人で瞑想も行いました。その後、性機能検査を受け直したところ、性的欲求は高まり、性的苦痛は減少したそうです。この研究では、瞑想が性欲減退や勃起不全など、さまざまな性的問題に役立つことも判明しています。
また、別の研究では、特にセックスのマインドフルネスの効果を調べ、セックス中、今この瞬間をより意識している人は、性的満足度が高いという結果が出ています。この研究の著者は、こうまで言っています。
セックスのためのマインドフルネス練習法
満足のいくセックスをするためには、今この瞬間に集中することが重要です。
しかし、セックスの前に瞑想をしなければならない、というプレッシャーを感じる必要はありません。ストレスに対する瞑想のように、毎日の習慣があれば、思考が暴走し始めたときにレジリエンスを高めることができるのです。
勉強の準備について考えてみよう。テスト当日にすべての情報を詰め込むのがいいのか、それともテスト当日まで勉強時間をコツコツ積んでいくのがいいのか。実は、瞑想は性生活や思考、あるいは心を治すためのものではありません。私たちは雑念をコントロールすることはできませんが、瞑想を使って雑念を捨て、今この瞬間に戻ることはできます。
心と体に起きていることにもっと気づくようになることが、喜びを受け取るための鍵なのです。気持ちいいことに気づいたら、それに身を任せ、自分が何を望んでいるのかに心を開き、タブーなく相手の話に耳を傾けることができるのです。レジに並んでいるとき、ガソリンスタンドで待っている間など、自分の呼吸に意識を集中させるのです。呼気の流れに注意を払い、胸の高鳴りを感じることで、気が散ったときにいつでも「今この瞬間」に戻ってこられるよう、心をさりげなく訓練するのです。これはセックスのときにもできることです。
どうすればもっとマインドフルなセックスができるのか?
<ゆっくりすること>
日中、マルチタスクをして過ごしていると、夜、セックスのときも同様な感覚で過ごそうとしてしまいます。一度に1つのことに集中するためにスピードを落とせば、現在にとどまることができます。考えがまとまらない、気が散ったと感じたら、深呼吸をして、今していることに集中しましょう。スマホからしばらく離れた生活をしてみるのも効果的です。定期的に呼吸法を実践することで、セックスの妨げとなるストレスを軽減することができます。
5分もしくは10分でよいのです。瞑想を始めましょう。短い瞑想でさえ、私たちはゆっくりと現在にとどまることを教えてくれます。定期的に練習することで、気が散りやすい心を落ち着かせ、その瞬間をダメにしてしまうような思考に対処することができます。ストレスや気が散っていることについて、自分を責めないようにしましょう。自分にどう語り掛けるかが、ストレス管理も含め、心身の健康に大きな影響を与えることが研究で明らかになっています。優しい言葉で自分に語り掛けましょう。
<イクことよりも、感じることを重視する>
官能への欲望は性行為の鍵です。気が散ったり、性欲が低下したり、オーガズムを得られないことに悩んだりしていると、それが頭の中を占拠し、感じることに集中できなくなります。私たちは、自分の体に戻る方法を学ぶ必要があります。もし「傍観」している自分に気づいたら、五感を研ぎ澄ましてみましょう。パートナーの肉体の味わいはどうだろう?どんな匂いがする?パートナーはあなたのどこを触っている?相手の目を見るとどう感じる?そうすることで、私たちの心は「今、ここ」に戻ってくるのです。
<セックスの話をすることに慣れる>
セックスの理解は、コミュニケーションから始まります。しかし、私たちは、性全般を穢れのようにタブー視するような文化や歴史のために、セックスについて十分な話をしないのです。セックスについて新しい視点で、読んだり、見たり、聞いたりすることで、生活の中でより快適に会話できるようになります。ポジティブな視点からセックスについて話す。例えば、「今のエッチにも満足してるけど、何か違うことをやってみたら面白いかもしれないね」など。もし不快に感じても、話すべきではないということではありません。そのような気持ちに寄り添うことで、恐怖がどこから来ているのかを理解し、この話題について話すことを受け入れる空気を作ることができるのです。
<快楽を究める>
これまで、女性の快楽は性教育の一部ではありませんでした。悦びの受け取り方、感じ方、与え方を学ぶことは、マインドフルなセックスを実践する上で重要な要素です。基本的な方法として、快楽のブログをつけることから始めるとよいでしょう。1日に2、3回、悦びを感じることを書き留めるのです。朝一番のコーヒー、お気に入りのレストランでのランチ、こだわりの食材を使った手の込んだクッキング、熱いシャワーを浴びること、などなど。寝室の外で自分が何に快楽を感じるのかを確認することは、心と体に何が起きているかを理解する上で大きな助けとなります。
<体に自信を持つ>
自分の体系や見た目にコンプレックスがあって、セックス中に「傍観」する人もいます。セックス中に不安を感じると、心から快楽を楽しむ妨げになります。マインドフルセックスの練習の一つとして、理想的な肉体をイメージして瞑想するのです。ベッドの中で自信を持つのに役立ちます。
「ボディスキャン」は、瞑想のテクニックの一つです。つま先から頭まで、コピー機が紙をスキャンするように、一定のペースで意識で身体をスキャンするのです。深い呼吸をしながら、スキャンし、それぞれの部分がどのように感じるかに集中します。体に表れている筋肉のこわばりや心の緊張に気づきやすくなります。また体全体をじっくり感じることで、普段は気づかずにいる体からのメッセージを受け止められるようになります。
まず自分の頭部をスキャンしましょう。光で頭の表面や頭の内部をくまなく照らしていくイメージです。同じように両目、鼻、口周り、ほほ、顎などそれぞれのパーツの感覚を入念に意識して感じ取ってみてください。続いて同じように光の流れとともに、首→両肩→胸→背中→腹→お尻→左右の太ももからふくらはぎ→両足底といった感じで、次々とそれぞれの部位を意識しながら、様々な感覚をスキャンしていってください。ボディスキャン瞑想は、体と心のつながりを回復させる瞑想法です。「今ここ」に心を連れ戻し、過去や未来へと注意が散乱してしまうことを防ぐ効果があります。
<セクシャルな脚本に従うことを強要しない>
昨今、セクシャル・ウェルネス(性にまつわる健康)という概念が注目されつつあります。WHO(世界保健機関)によれば、『セクシャリティに対して身体的、感情的、精神的、社会的にも健康な状態であることは、心身のウェル・ビーイングの向上である』と言っています。「セクシャル・ウェルネスの探究」が私たちの人生の幸福度や充実度にいかに影響するかが世界中で認識されるようになってきています。
セックスのときに男女がそれぞれどう振る舞うべきか?ジェンダーに基づいた多くのメッセージがあります。そのため、私たちの多くは、自分が何をしたいのか、何が自分にとって気持ちいいのか、直感に従うのではなく、いわばセクシャルな脚本に従うことになります。セクシャル・ウェルネスを向上させるには、こうした物語に光を当て、何が自分に合っているのかを見極めることです。
タントリック・セックスを、試してみるのもよい考えです。
タントリック・セックスは、性交をゆっくりと行い、オーガズムよりもパートナーとのつながりを長く保つことに重点を置いています。興味ある何か新しいことを試してみると、私たちの性生活はより充実したものになるでしょう。