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「セックスはすべての秘密の母である」——I.J.ワインストック
秘密にされてきたのは、私たちの身体と悦びの知恵そのものかもしれません。

はじめに

多くの人が成長のどこかで「性的なこと=恥ずかしい/いけない」と学びます。とりわけ性の領域は、歴史的に、そして時に意図をもって統制の対象とされてきました。その結果、からだと歓びへの信頼が見えにくくなり、羞恥という感情が「配布された物語」として受け継がれてきたのです。私たちにできるのは、道徳や信条の押し付けではなく、物語の来歴を見直し、丁寧に学び直す(アンラーニング)ことです。本稿は、セラピストとしての私の体験を踏まえ、性的羞恥心をやさしくほどいていくための視点と具体的な手がかりをまとめたものです。

性的羞恥心は「学習」される

子どもは本来、身体への好奇心と無邪気さをもっています。そこに「恥ずかしい」「罪だ」「汚らわしい」といった言葉や罰が重なると、身体感覚=罪悪感という回路が形づくられます。また、宗教的・文化的タブーや、ケアする大人の未解決の不安が、善意ゆえに羞恥として伝達されることも珍しくありません。

はっきり言えば、性は最もコントロールされてきた領域です。宗教・国家・家族制度・教育・メディアは、それぞれの秩序や都合のために「純潔」「沈黙」「恥」といった語りを流通させ、からだと悦びを管理してきました。だから、私たちが身につけてしまった羞恥は個性の欠陥ではなく、配布された物語だと捉え直せます。

必要なのは、人を責めることではなく、物語の来歴を見直すこと。そして、自分に不要な語りをそっと手放すことです。

恥のメカニズムを知る

心理学でいう「恥」は、「自分は欠けていて、愛されたり仲間に入ったりする価値がない」という物語を育ててしまう感情です。

そこに性的な恥が重なると、身体の感覚や性的欲求そのものに“不信感”を抱いてしまい、自己否定をいっそう強めがちです。

  • 恥は沈黙・秘密・孤立の中で増殖する
  • 和らげるカギは、言葉にすること・わかってくれる人の共感・安心できるつながり

こんなサインが重なっていたら

以下のようなサインが重なっていたら、羞恥が日常に影響している可能性があります。

  • 裸になるのが苦手/自分の体を見られたくない、鏡や写真の自分が実際より悪く見えてしまう
  • 見た目やふるまいを評価されるのが不安で、手をつなぐ・ハグ・キスや性行為の時間を避けがちになる/行為の後に「悪いことをした」と感じて自分を責めてしまう
  • セルフプレジャーを「禁忌」と感じる、褒め言葉を受け取れない、欲求を抑え込む
  • 性や行為について話すことへの強い苦手意識(安全な場でも難しい)
  • 性的なスキンシップ・関係性の困難(拒絶恐怖、満足度の低下、抑うつや孤独感などに波及)

克服のステップ(学び直しの道すじ)

  • 起源を知る: その羞恥はどこから来たのか(文化・宗教・家庭・体験など)を見直し、今の自分に役立つかを判断します。
  • 思い込みを言い換える: 「恥ベースの考え」をやさしい言葉に置き換えます。例:「私はダメ」→「私は学びの途中」「私の体は大切」
  • マインドフルネスと自己慈悲: 良し悪しで裁かず、気づくことを優先します。
    ・ボディスキャン:足先〜頭頂まで“いまある感覚”を順に確かめる
    ・五感チェック:見える/聞こえる/触れている/匂う/味の各1つを言語化
    ・軽い動き:首・肩・手首・足首を無理なく動かし、心地よさを0〜10で表す
    ・ノージャッジ・メモ:浮かんだ思考・感情・身体の言葉を書き留める
    ・セルフタッチ観察:胸や腕など安全な部位に手を置き、安心/不快/無感覚をラベル化
    → からだと再びつながるほど、批判を恐れずに自分のセクシュアリティを受け入れやすくなります。
  • 正しい知識で上書きする: セックスポジティブな本・講座・信頼できる発信者・ワークショップで、誤情報を更新します。
  • 恥のない対話を練習する: パートナーと境界・快/不快・望み・過去の影響を、明確で尊重ある言葉で共有します。
  • 専門家と取り組む: 性に肯定的でトラウマに配慮した支援を検討します。CBT(Cognitive Behavioral Therapy=認知行動療法)マインドフルネス技法は否定的信念の見直しに有効と報告され、性的トラウマ関連の症状では6〜12回程度のCBTで改善が示された研究もあります。

アンラーニング(学び直し)の実践

以下は、私が現場で有効だと感じているやさしく始めて、いつでもやめられる安全なワークです。

  • 恥の地図(ジャーナリング): 強まる場面/誰の言葉か/事実か解釈かを仕分け
  • 言葉の置き換え:
     「汚い → センシティブで大切
     「いけない → 合意と境界のない行為はいけない。でも私のからだは大切
     「恥ずかしい → 学びの途中。選び直せる
  • セルフ・コンセント(自己同意): OK/NOの言い回しテンプレを用意
  • 快の辞書: 非性的な快も含め50個リスト化し、倫理に反しない自己栄養として再学習
  • グラウンディング: 椅子・背もたれ・足裏の接地感を確かめ、「いま・ここ・私」に注意を戻す

対人関係での“恥”を減らす会話術

  • 合意は継続的(一度OKでもいつでも変更・撤回可)
  • 「気持ちよさ/不快」を数値や色で表して伝える(例:快7/10)
  • 役割や期待ではなく、境界・スピード・アフターケアを事前に言語化
  • パートナーが羞恥を煽る言動をしたら、具体的に指摘+希望を提案
  • 例:「その言い方だと自分を責めたくなる。代わりに“ここはどう?”と聞いてほしい」

よくあるつまずきと対処

  • “悦び=わがまま”の罪悪感
    「悦びは資源」。満ちた人ほど思いやりの余力が増える
  • 過去の記憶がよみがえる
    → 無理に進まない。中断・休息・別話題で自己を守る
  • 文化や信条との葛藤
    → 「信仰」と「羞恥の刷り込み」は分けて考える。自分の解釈を育てる余白を

レッドフラッグ(専門家への相談を検討)

  • フラッシュバック・解離感・自己否定が強く日常に支障
  • 同意のない体験や暴力の記憶が繰り返し浮上
  • 自傷衝動や依存的な行動が増す
    → トラウマに明るい専門職(医療・臨床心理・性的トラウマ支援)へ。あなたは一人ではありません。

終わりに

羞恥は、黙って抱え込むほど強くなります。言葉にすること・共感・安全なつながりが、回復の扉を開きます。今日からできるのは、配られた物語をそっと脇に置き、自分の感覚と選択を取り戻す小さな一歩です。

私は悦びを感じ、愛されるにふさわしい。

この一文を合図に、新しい章へ進みましょう。